しるし。


5年くらい前に 一度
私の 子供が 流れていった。


生理の周期と 同じ時期に 血が 出て
だから すごく 早い時期だし
そのまま 気付かなくても いいくらい
だったのだけれど
私には 妙な 確信が あって
トイレの 水の 鮮やかな 赤色を
しばらく 見つめていた。


病院に行く、と 言ったら 同居人(当時)は
少し 不思議そうな 顔をした。
病院でも 少し 不思議そうな 顔を された。
「周期どおりに 出血が あるだけなのに
 どうして?」と 看護婦さんにも 聞かれた。
一応、検査を したら 陽性なので
初期流産ですね、と。
最初に 書く 受付の 紙に 「未婚」と
書いたからなのか 先生も 看護婦さんも
これで ひと段落ですね、と 言った 対応だった。
生まれたばかりの 子供を 抱いた 人と
若い カップルが いる 待ち合い室を 通り抜けて
ふわふわと 家まで 帰った。


それで ひとりで 泣いたりした。
泣いたのには ほっとしたのも あった。
ほっとした 自分に 腹も立った。
いろんなことが 一緒になって
よく わからなかった。


仕事から 帰ってきた 同居人は やさしくて
でも その やさしさは つらくて 憎くて 痛かった。
しばらく 深い深い場所に 沈みこんで いたかった。


それから 1日 会社を 休んだ。
休む理由を 風邪、と 言うのも
卑怯で 悲しい、と 思った。


その次の日は お休みで
部屋で いるよりは、と 外に 出た。
同居人の 両親から 電話が あって
一緒に 山菜を 採りに行くことに なった。
突然 空気が 薄くなったせいか
ふっと 目の前が 黄色くなって
何も 見えなくなった。
しゃがみこんだ 私を みんな 心配してくれた。
帰り 途中で 車を 止めてもらって
一度 吐いた。
おなかが 痛かった。


それから 病院へ 行こう、と
病院へ 電話を したら
つい 一昨日 行ったばかりなのに
カルテも 見つけてもらえなくて
先生も いなくて
10分も 15分も 電話を 待たされて
「よっぽどの痛みですか?」と聞かれたので
「もう いいです。」と 電話を 切った。


休日も 受け付けてもらえる 病院を 探して
受け付けを すませて 待っていたら
看護婦さんが 来てくれて
私の 話を 聞いてくれた。
初期流産でも お産と 同じ ダメージを
体は 受けているから
しばらくは 無理を しちゃいけない、
一番 つらいのは あなただから
周りの人に 甘えなさい、
検査も 今から できるけれど きっと
時間が 経てば 大丈夫だから
無理に 嫌な検査なんて しなくていいし
心配なら また いつでも きてください。と
言ってくれて それは 私が 求めていた言葉だった。
それを 聞いてやっと ほっとして
涙が 止まらなくなった。


あの時から 今。